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映画「おくりびと」 山崎努、本木雅弘、山田辰夫 [映画]

【解説】
 監督は「バッテリー」「壬生義士伝」の滝田洋二郎。脚本は、本作が初の映画脚本となる小山薫堂。時に激しく、時にやさしく、チェロの音色で織りなす音楽は久石譲。物語の舞台は、名峰・鳥海山を背景に、美しい自然と四季の移ろう山形県庄内平野。

【物語】
 東京でチェロ奏者をしていた小林大悟(本木雅弘)はプロの演奏家をあきらめ、故郷に戻ってきた。生活のため、とりあえず求人広告を見て、仕事の内容も分からないままに面接に向かった大悟は、棺桶が置いてある古びた事務所で、社長の佐々木(山崎努)から面接を受け、すぐに採用される。
 佐々木から、仕事の内容は納棺、遺体を棺に納めること聞いて、一旦は断る大悟だが、月50万円という高給に魅せられて引き受けてしまう。しかし、妻の美香(広末涼子)には、本当のことを言えず、冠婚葬祭関係の仕事に就いたと答えてしまう。
 こうして、美香には内緒のまま、大悟の新人納棺師としての日々がはじまる。さまざまな境遇の死や別れと向き合ううちに、はじめは戸惑っていた大悟も、いつしか納棺師の仕事に誇りを感じるようになるが、妻の美香は、仕事と妻と、どちらかを選べと迫り、妻と言えない大悟に、「穢らわしい」と言い残して家を出てしまう。
 季節はうつろい、庄内平野にも春が訪れる頃、大悟に次々と事件が起こる。美香の懐妊と帰宅、銭湯のおばさんの死、30年前に女を作って家を出て行った父親の死・・・。

【監督】 滝田洋二郎
【脚本】 小山薫堂
【音楽】 久石譲
【キャスト】 本木雅弘、広末涼子、山﨑努、余貴美子、杉本哲太、峰岸徹、山田辰夫、橘ユキコ、吉行和子、笹野高史
2008年日本映画、2時間10分、松竹
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【感想】
 ベテランと言っても、起業8年足らずの納棺師、佐々木生栄、NKエージェント社長を演じる山崎努さんが味があって、とても良いのと、行き当たりばったりで、フラフラしている新米納棺師、小林大悟を演じる本木雅弘さんが素直で面白い。
 佐々木が実は、大悟の父だったというオチなのかと思ったりしたほど、佐々木の大悟への愛情が感じられて、面白かった。老い先、さして長くはないと感じている佐々木は、自らの死の前に後継者を欲し、大悟を一人前の納棺師に育てたかったのだろう。
 その一方で、大悟の妻、美香を演じる広末涼子さんが今一でした。「穢らわしい」の一言に、どうしても実感が隠っているように聞こえない。もともとの脚本に無理があるようにも思うので、役者の力だけで補うことは無理だったか。

 さて、そんな主役とは別に、なかなか良い演技をしていたのが、滝田監督の高校時代の同級生という山田辰夫さんです。妻を亡くした素封家、富樫家の当主という役どころでしたが、台本の台詞やト書きには書いてなさそうな良い芝居でした。

 遅刻した佐々木(山崎努)ら納棺師に対する富樫(山田辰夫)の心ない言葉は、人の死に付け込んで金儲けをする連中に対する侮蔑であると同時に、死んだ妻に対する怒りであり、憎しみでもあるようでした。死人のために金を使うのはもったいないと言わんばかりの態度は、富樫の妻への愛情は、とうの昔に冷めてしまっていて、他所に愛人でもいるんじゃないか、と思えるほどです。実際、布団に横たわる死んだ妻は、遺影の写真とは異なり、とても綺麗とは言えない顔です。
 その妻が佐々木の手によって、徐々に生気を取り戻していく姿を胡散臭そうに見詰める富樫の姿は、小手先で騙されないぞと言う感じで、納棺師の仕事に対する富樫の否定的な態度は、自身の妻に対する愛情への否定でもあるかのようでした。
 しかし、亡き妻が納棺師の手によって見違えるように綺麗になったとき、思いがけず富樫の脳裏に様々な思いが去来し、遠い昔に無くした妻への深い愛情が胸に戻って来る。死の直前、妻が化粧をしているかどうかの関心もなく、口紅のありかなど知りもしなかった富樫にとって、それは自分でも忘れていた、妻への愛情だったのかなという感じで泣けてきます。

 というような富樫の姿や心の内は、映画を観た客の勝手な思い込みです。脚本家や監督、俳優の意図とは全然違うかも知れません。
 しかし、いくつもの顔と複雑な側面を持ち、長い年月を生きてきた人間の本当の姿というものは、他人には簡単には分からないものです。また、接する人、受け取る人によって、その人の姿は様々に異なるものでありましょう。100%の善人や、完全なる悪人など存在しないように、本当の生きている生身の人間であれば、様々に異なる印象を相手に与えてくれます。
 そう言う意味で、山田辰夫さんの演じた富樫は、本当に生きている、生きてきた人間のようでした。

 役者にとって、脚本どおり、演出どおりの人間を演じるのも大切ですが、それ以上に生きている人間を演じて見せてくれる役者さんは、なかなか素敵です。



「おくりびと」オリジナルサウンドトラック

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  • アーティスト: 久石譲,サントラ
  • 出版社/メーカー: UNIVERSAL SIGMA(P)(M)
  • 発売日: 2008/09/10
  • メディア: CD



ピアノ&チェロピース おくりびと

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  • 作者: 寺西 千秋
  • 出版社/メーカー: ケイ・エム・ピー
  • 発売日: 2008/09/10
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おくりびと (小学館文庫 も 3-4)

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frhikaru

山田辰夫さんの訃報を聞いて、惜しい役者を亡くしたなと思いました。
合掌。

by frhikaru (2009-08-24 12:12) 

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