映画「出口のない海」 市川海老蔵、上野樹里、塩谷瞬、黒田勇樹、香川照之 [映画]
戦争映画と言うよりは、反戦映画に近いドキュメント映画という感じの作品です。
有名な「神風」特攻隊は、零戦等の飛行機に爆弾を積むというものでしたが、この映画で、主人公の並木浩二(市川海老蔵)が乗り込む人間魚雷「回天」は93式魚雷に人が乗るという、およそ常軌を逸したとしか思えないような兵器です。
爆薬を腹に巻いて戦車に突っ込む、イスラム教徒の自爆テロと、ほとんど変わりないと言って良いでしょう。
攻撃が成功する確率は低く、訓練中や移動中の事故や故障で失われる兵士の数の方が実際に攻撃で戦死する者の数よりも多かったとさえ言われるような、とんでもない代物です。海軍上層部により、一度は却下されたアイディアと言うのも当然と思います。
並木(市川海老蔵)は、終戦の前日、回天の訓練中に事故で死亡します。
特攻に成功した戦友の戦果は、輸送艦の撃沈という地味なもので、俗な映画で見られるような戦艦や空母と言った主力艦を攻撃して、華々しく散っていったというような派手なものではありません。
特攻というと、何か格好の良いもののようにも聞こえますが、そんなものではないようです。
米軍の駆逐艦に追われて、何時間も息をひそめて潜行し、40℃近い暑さの狭い潜水艦の中で、ただひたすら耐えるだけというのは、陸にいる人には想像も付かない世界でしよう。以前、本物の潜水艦に乗せてもらったことがありますが、余りの狭さに驚きました。あんな鉄の棺桶みたいな所に閉じ込められて、魚雷に乗り込む時を待つなんて、およそ正気の沙汰とは思えませんが、それが戦争の持つ怖さ、狂気というものなのでしょう。
戦争の悲惨さや残酷さを描いた映画は少なくありませんが、この「出口のない海」は、悲惨と言うよりも、いかに無常かを伝えている映画です。派手な戦闘シーンや、血塗れの兵士、痛ましい戦死傷者などは出てきません。
ただ、死ぬためだけに必死に訓練に励む若い兵士を市川海老蔵さんが真剣に演じています。海老蔵さんは28歳と、大学生にしては少し歳を取りすぎてしまっているのですが、そんな歳を感じさせない若々しい演技でした。
訓練の最中、教官が「操作を誤ると、死ぬぞ」と並木らを脅すシーがありますが、たとえ正確に操作しても乗員は確実に死ぬことになるのが回天という兵器ですから、こうしたセリフは冷静に聞けば、滑稽でさえあります。
しかし、当事者達は、そのことに気が付かないというのは、その場の雰囲気、時代の流れというものの持つ怖さでしょうか。
この映画は、かつて日本に「回天」という兵器があり、その回天に乗り込んで死んでいった者達がいたということを記録するために作られたものだということが良く分かる出来でした。
並木の恋人、鳴海美奈子役の上野樹里さんは「のだめ、カンタービレ」や「虹の女神」などとは全く違う清楚な少女を演じています。ただ、この役は、樹里さんのキャラには合っていないようで、今一歩、印象が薄くなっています。「7月24日通りのクリスマス」でも見せたような3枚目の女の子という役が樹里さんには似合うのではないでしょうか。それでいて、王子様と結ばれても、なぜか、あまり違和感がないのが彼女の本来の魅力というものではないかと思います。
金比羅さんの縁起を担ぐ、潜水艦の鹿島艦長役の香川照之さんも、色んな映画に脇役として登場していますが、なかなか良い味を出しています。香川さんは、父は歌舞伎俳優の市川猿之助(三代目)、母は元宝塚歌劇団の浜木綿子という血筋に加えて、自身も東京大学が心理学を学んだという異色の俳優です。
ちょっと嫌味のある憎たらしい役から、物分かりの良い上司の役まで、何でもこなせるのは持って生まれた血筋によるものか、本人の努力によるものか、あるいは、その双方か・・・。
名投手の並木浩二に憧れていた整備兵の伊藤伸夫役の塩谷瞬くんは、デビュー当時の長髪、王子様的なキャラとは違う、短髪の兵隊さんのキャラが結構馴染んでます。
ウルルンでマラリアになった後、一時、姿を見掛けなくなっていたので、そのまま消えてしまうかと心配していましたが、どうやら大丈夫なようです。今後とも頑張っていただきたいと思います。
並木と同じ野球部員の小畑聡(黒田勇樹)は乗船していた輸送船が撃沈されて、死んでしまいます。この映画では、およそ名誉の戦死というような美辞麗句とは無縁の地味で現実的な『戦死』が描かれています。
また、特攻を志願しないというのも、ある意味、現実的でありました。
小畑役の黒田くんの甲高い声は、あまり上手ではないけど、野球が好きという設定と合わせて、意外と良いキャスティングかなと思いました。
塩谷君の短髪キャラはあくまでも映画での役作り。今はいつもの長髪・王子様なビジュアルに戻ってます。病気復帰後(昨年秋)は昼ドラ「デザイナー」にレギュラー出演してました。来年は映画数本出演が決まってるとの事です。
by Dai (2006-11-10 01:58)
来年は塩谷瞬くんが出演する映画が何本か公開されるそうです。
「赤い文化住宅の初子」 監督:タナダユキ
2007年公開予定
「ココロの星」 監督:松浦雅子
2007年春公開予定
「ヴァージンスノー」 日韓共作映画
2007年春公開
「龍が如く」 監督:三池崇史
2007年春公開予定
「Robo★Rock」(主演)
2007年春公開予定
塩谷瞬くんというと昔はもっと髪が長かったというイメージが強かったので、今は短いなと思ってます。
「短髪」と言っても「出口のない海」の兵隊さんほど短いという意味ではなく、「パッチギ」辺りから短くなったなと感じてます。
by frhikaru (2006-11-10 02:52)