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映画「地下鉄(メトロ)に乗って」 大沢たかお、崎本大海 [映画]

 浅田次郎の小説は泣けるものが多く、中井貴一主演で映画化された「壬生義士伝」も泣けましたが、この映画「地下鉄(メトロ)に乗って」も泣けました。後半、小沼佐吉(大沢たかお)が地下鉄に乗っている長谷部真次(堤真一)に、ホームから敬礼するシーンの辺りから、ずっと泣けます。

 主人公、長谷部真次の父、小沼佐吉は戦後の闇市からのし上がり、一代で繊維関連の大企業を築いた男ですが、そこに至までの間、決してきれい事ばかりをしていた訳ではなく、かなりの悪事を重ねて来たような、いわゆる悪党です。

 「壬生義士伝」の主人公、吉村貫一郎(中井貴一)も、金のために人を斬り、人殺しを商売にするという、一見すれば、極悪非道な悪党ですが、単なる悪人ではなく、むしろ心の優しい、底抜けにお人好しで、悪いことなど、およそできないような善人という面も持つ人物でした。不器用であるが故に、幕末から明治へという激動の時代を旨く生き抜けなかった哀しい武士です。

 小沼佐吉は吉村貫一郎に比べれば、戦後の動乱期をはるかに旨く生き抜いて成功を収めるのですが、経済的な成功にもかかわらず、やはり、その不器用さ故に、家庭的には恵まれない不幸な人生を歩むことになります。愛情をうまく伝えることができず、暴力によって表現してしまうような、小沼佐吉は、そんな不幸な男です。

 ところで、映画のタイトル「地下鉄に乗って」は、「メトロに乗って」と読み、地下鉄に乗って過去へタイムトリップをしてしまうという設定を表しているのですが、この「地下鉄(メトロ)」という言葉も、なかなか切ないものです。

 真次(堤真一)の父、小沼佐吉の若い頃、出征前のあだ名が「メトロ」です。これは、地下鉄に乗るような金もない癖に、「毎日、地下鉄(メトロ)に乗ってる」と佐吉が見栄を張っていることをからかって、工場の同僚が名付けたと言うということですが、その嘘を知っている仲間達が出征前の最後の思い出に、と、皆で金を出し合って佐吉を地下鉄に乗せてくれます。生きて帰ることもないだろうから、地下鉄に乗ったという嘘をせめて死ぬ前に真にしてやろうということでしょうか。

 主人公の兄、昭一(北条隆博)が帝大、それも東京大学へ行くことに、佐吉がなぜ執着するのか、その理由にも泣けますが、それ故に、昭一が事故死してしまうと言う話にも泣けます。

 可哀想だから、という理由で、さして好きでもなかった佐吉のために、千人針を作ってあげたという真次の母、民枝(吉行和子)。
 帝大生の恋人(おそらくは戦死?)がいて、その子供まで宿していた民枝を満州の戦地から、命からがら帰還した佐吉が妻に迎え、産まれてきた子を我が子として育てるという話も、なかなか良い話ですが、だから、昭一には京大ではなく、東大へ行け、と訳も言わずに、ただ怒鳴りつけるだけの佐吉も実に泣けます。
 死んだ他人の子供を我が子のこどく育て、実父の夢を叶えさそうだなんて・・・、気恥ずかしくて、とても佐吉には言えないでしょう。

 知らぬこととは言え、妻子のある男性、それも異母兄の真次を愛してしまった軽部みち子(岡本綾)にも泣けます。

 最後に、母、お時(常盤貴子)の唯一の希望、愛する男、佐吉の子供(みち子自身)を産むという願いを奪い、自らの命をも奪って、真次の幸せを願う、軽部みち子の健気さにも泣けます。
 所詮、兄である真次と結ばれることがないのであれば、せめて愛する真次が家族と幸せな生活を続けられることを願うというのは・・・、いささか理解しがたい面もありますが、とても哀しい話です。

 ところで、長谷部真次の子供時代、小沼真次を演じているのは、崎本大海くんです。NHKの朝の連続ドラマ「わかば」主人公の弟、高原光役を演じていた少年も、もう二十歳の慶大生です。最近の俳優は、大学、それも慶応や早稲田といった一流校へ進学するようです。

地下鉄(メトロ)に乗って

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  • 作者: 浅田 次郎
  • 出版社/メーカー: 講談社
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地下鉄(メトロ)に乗って―特別版

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地下鉄に乗って

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  • 出版社/メーカー: 講談社
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壬生義士伝 上   文春文庫 あ 39-2

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