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映画「幸せのちから」 ウィル・スミス、クリス・ガードナー [映画]

 原題は「the PURSUIT of HAPPYNESS」、アメリカ独立宣言の中の一節、「the pursuit of Happiness」から取られた文言で、直訳すれば「幸福(の)追求」となり、「生命」、「自由」とともに、日本国憲法第13条にも登場する基本的人権の一つです。(Happinessの綴りが間違っている理由は映画を見ると分かります。)

 ちなみに、アメリカ独立宣言では、
「We hold these truths to be self-evident, that all men are created equal, that they are endowed by their Creator with certain unalienable Rights, that among these are Life, Liberty and the pursuit of Happiness.」
「すべての男(人間)は(神”the Creator”により)平等に作られていること、そして、彼ら(すべての人間)は決して譲ることのできない諸権利を彼らの神から授けられており、これらの権利の中には生命、自由、幸福の追求が存在することを我々は自明の真理であると考える。」(直訳)
と書かれています。

 この後の独立宣言では、政府の存在目的は、これらの権利を保障することであり、政府がこの目的を見失えば、国民は政府を倒し、新たな政府を作る権利を有すると続きます。そして、当時のアメリカ人(ほとんどはイギリスからの移民)は、この権利が故にイギリス国王の代理人である総督政府を武力で倒し、アメリカ合衆国大統領の下に新たな政府を作っていきます。

 幸福は与えられるものではなく、求めるものであるというのはキリスト教的な思想の一つで、「求めよ、さらば与えられん」という形で、よく使われます。もともとは、ひたすら神に祈れと言う意味だったようですが、今では、ただ単に待つのではなく、もっと積極的に努力せよと言う意味で理解されているようです。
 この話は信心深い人が溺れ死ぬ寓話、すなわち海で溺れて神に助けを求め、神の助けを信じて、人(船)の助けを拒んで溺れ死ぬ、愚かな男の話としても映画の中で語られます。

 この辺りは独立・開拓精神旺盛な、いかにもアメリカ的な考え方という気がします。国王や政府、あるいは神に頼って、他人に幸せにしてもらうことを期待するのではなく、自分の幸せは自分の力で掴もうという精神で、日本人には割と欠けているもののように思えます。
 良い悪いは別として、日本人は一般に公への依存が強いようです。その代わり、公への信頼も篤いので、暮らしやすいと言えば、暮らしやすいのですが・・・。他人に頼らずに自由に生きるというのは、存外、苦労が多く、大変なものです。親に頼って生きられる人は気楽かも知れませんが・・・。

 さて、この映画自体は破産した医療機器(超音波式骨密度測定器?)のセールスマンが株の仲買人になって、成功する姿を描いたサクセスストーリーというか、あるいは親子、父と息子の愛情物語というような内容です。
 正直、それ程、面白いとは思えないのですが、アメリカという国を理解する上では良い映画かも知れません。

 時代は1980年代はじめ、日本は二度の石油ショックから立ち直り、これからバブルへ向かおうという時代です。一方、アメリカは石油を大量に消費する経済・社会体制からの脱却が進まず、自動車をはじめとして、日本製の工業製品に圧されて産業界が苦境に立っていた時代、また、連邦政府の赤字が拡大し、危機的な事態に陥りつつあった時代、さらに、そんな中で、なおも膨大な軍事支出を伴う東西冷戦を続けていた時代でした。

 この映画は、黒人(今はアフリカ系アメリカ人と言うようです。)が主人公ですが、必ずしも人種差別を扱ったものではなく、ことさら人種差別反対を唱えるものでもありません。主人公は、たまたま黒人であっただけで、アメリカで生まれ、アメリカで育ったアメリカ人という作りの映画です。
 強いて言えば、証券会社の顧客や病院の医師のほとんどが白人だったという辺りに、その片鱗を窺えないこともありませんが、ヒッピーもホームレスも多くは白人でした。物語の舞台がサンフランシスコではなく、ニューヨークやテキサスなどだったら、また、違った物語になっていたのかも知れません。
 なお、サンフランシスコはゲイの街としても有名ですが、それらしい人は登場しません。父と息子、男同士の愛情物語に、ゲイは相応しくなかったのかも知れません。

 キング牧師の公民権運動から半世紀が経ち、黒人が統合参謀本部議長(軍人のトップ)や国務長官(外務大臣)、上院議員を務め、大統領候補にもなろうかという時代になって、アメリカにおける人種差別は新たな展開を迎えているようです。それを象徴するのが、Happinessの綴りにこだわり、子供の教育に関心を強い持つ主人公です。映画の中でも中国語しか喋らないアメリカ人が登場しますが、現代アメリカにおける差別は肌の色ではなく、英語が分かるか否か、英語が喋れるか否かで行われているようです。
 カリフォルニアなどでは英語の喋れないアメリカ人(主にヒスパニック系)に対して、英語教育を義務付けるか否かで議論が行われていますが、やはり英語が喋れると言うことは何かにつけて有利なようです。

 ところで、邦題の「幸せのちから」というのは、いかがなものでしょうか。せめて「幸せを求めて」ぐらいにできなかったのでしょうか。原題のHappynessのスペルミスと共に、本来の意味を伝え損ねているようで、少し残念です。

 最後に原作者のクリス・ガードナーは肌の色以外、主演のウィル・スミスとは全然似ていませんが、ラスト近くの坂道のシーンで、スミス親子と擦れ違うビジネスマン風の男という形で、この映画の中に出演しています。セリフはありません。

幸せのちから [DVD]

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  • 出版社/メーカー: ソニー・ピクチャーズエンタテインメント
  • メディア: DVD

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