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映画「愛の言霊」 金田敬、徳山秀典、齋藤ヤスカ [映画]

 初日(10月27日)の舞台挨拶で、監督の金田敬さんが小道具にこだわったので注意して観てくれと言っていたので、2回目は原作との相違点を中心に小道具にも注意して観てみました。

 以下、ネタバレ・コメントなので、観る前に読むのが嫌いな人は読み飛ばしましょう。

 原作もなかなか良いマンガですが、原作と変えることによって、映画の方が良くなっている点をいくつか上げてみます。

 一つ目は、祥吾(加々美正史)が立花(齋藤ヤスカ)から借りた大谷晋也(徳山秀典)のDVD。

 原作では、祥吾は大谷本人からビデオを借りていて、それを立花に渡して、大谷に返してもらおうとしますが、ちょうど大谷と喧嘩していた立花に、自分で返してくれ、と断られてしまいます。

 映画では、大谷のDVDを立花が祥吾に勝手に貸していて、それを知らない祥吾が大谷に対して、立花に返してくれと頼みます。祥吾に頼まれた大谷は、自分のDVDを立花が勝手に祥吾に貸していたことに、ムッとしつつも、素直にDVDを受け取ってしまいます。そして、家に帰ってから、晋也が立花に文句を言うと、「お前のものは、俺のもの」と立花に言い返されてしまいます。

 このやりとりは、エンディングのシーン(立花のシャツを晋也が着て、晋也の靴を立花が履いているという原作にもあるシーン)にも繋がる話で、なかなかお洒落な展開になっています。
 「ごくせん」などを手掛けた脚本の横田理恵さんのセンスの良さかも知れませんが、小道具の使い方としては、原作よりもスマートです。

 二つ目は、立花が壊してしまった晋也のお気に入りのマグカップ(立花がプレゼントしたもの)。

 このマグカップは、原作には登場しませんが、怒る晋也を立花がキスで誤魔化して機嫌を取るというシーン(原作では、立花の浮気を疑って怒る晋也の機嫌を取るシーン)に繋がります。
 嫉妬(Jealousy)がテーマの、この映画において、キスぐらいで誤魔化せるのは、マグカップのような些細なこというのは、妙に納得してしまいます。もっとも、この立花から貰ったマグカップは、よほど晋也のお気に入りだったようで、壊れた後も、そのまま使い続けて、コーヒーなどを飲んでいます。

 三つ目は、水沢雪子(松岡璃奈子)が誕生日プレゼントとして立花に贈る香水の名前。

 原作では、「Happy」ですが、映画では、そのものずばり「Jealousy」です。
 映画「愛の言霊」は、大谷と立花、そして、水沢雪子、三者三様の嫉妬の物語です。
 映画にしかないプラネタリウムのシーンで、3人が同じ香水を付けていて、しかも、その名前が「Jealousy」というのは、なかなか心憎い演出です。これが原作のとおり「Happy」という香水を3人が付けていたら、少々興醒めだったでしょう。

 四つ目は、小道具というよりも大道具ですが、立花のバイト先と水沢のバイト先。

 原作では、立花は塾の先生、水沢はキャバクラ?のホステスです。
 映画では、立花のバイトは、中高年相手のパソコン教室の先生。社交的で明るく、誰に対しても優しく接することの出来る立花の性格を象徴するバイトです。また、「嫉妬」という漢字の書けない立花に対して、大谷が「塾の先生が書けないんですか?」と揶揄して、立花が「塾じゃねぇ、パソコン・スクール」と反駁する場面へと、映画では繋がっていきます。

 水沢のバイトも、お洒落なカフェバーのウェイトレス。高校時代からの爽やかで清純なイメージ、それに多少の色気をそのまま反映したバイトです。
 この辺りは正直に言って、原作者の力不足でしょうか。水沢のバイトが原作のように、お客からの指名を争うホステスでは、大谷への秘めた想いが浮いてしまいます。

 五つ目は、道具ではなく、「立花くん、『しっと』って、『漢字で』書けますか」という大谷の台詞です。

 原作では、「嫉妬って 字 書ける?」という立花の台詞です。この台詞は、映画にも登場しますが、大谷にも同じ台詞を言わせ、さらに「漢字で」と強調することで、漢字の書ける大谷(細かいことを気にして、根に持つタイプ)と、書けない立花(些細なことにはこだわらないタイプ)というキャラクターの差が際立ってきます。

 以上、映画の良い点を挙げて、原作の欠点をあげつらうような感じになってしまいましたが、立花と大谷と水沢、三人のちょっと変わった三角関係というストーリーは傑作です。Boys Loveものは、男子校や男子寮という設定を無理矢理作って、強引に男性同士の恋愛関係を仕立て上げてしまうものが多いのですが、この「愛の言霊」では、主人公の大谷が女では話が成り立ちません。

 本当は、大谷のことが好きなのに、無愛想で、取っ付き憎い大谷に直接、声を掛けられず、いつも大谷と一緒にいる立花を通して、大谷を誘うことしかできない水沢雪子。そこには、大谷といつも一緒にいる立花に対する『嫉妬』があります。

 水沢が大谷のことが好きらしいと気が付きつつも、大谷を取られるのは嫌なので、そのことを晋也には伝えない立花都。そこにも、水沢に好かれる大谷に対する『嫉妬』があります。

 そして、物語の中で一際目立つのが女心に疎くて、水沢の気持ちに全く気付くことができず、水沢が好きなのは自分(大谷)ではなくて立花で、立花も男の俺(大谷)よりも、女(水沢)の方が良いに違いないと勝手に僻んで思い込んでいる主人公の大谷晋也。そこには、大谷と水沢に対する強烈な『嫉妬』が現れています。

 結局、最後は、水沢の大谷への愛の告白により、すべてを悟った大谷が立花に不器用な形で謝り、水沢にも、立花への愛を示すという微妙な形で詫びるという形で終わります。
 ハッピー・エンドのようで、実は、そうハッピーではないという不思議な結末です。
 こういう話を産み出した原作者の紺野けい子さんというのは、なかなか素晴らしい才能の持ち主なのでしょう。

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コメント 7

utena

はじめまして。
この頃、そうじゃないか、と思ってたことがかかれてて、
驚きとともに感動してます。
「愛の言霊」
見てないですが、
予告編を見て、この映画、多分いいなって思ってました。
biglobeの動画サイトにコメント残したぐらい。
やっぱ、脚本かな、と。
漫画は好きでしたが、映画バージョンにしてあるのは正解ではと。
「嫉妬」に翻弄されてすれ違うせつなさに
予告編だけで、ぐっときてました。
アンド部屋のセットの感じが安っぽくないな、と。

BL系、次々(TVも含めて)ながら、予告編や一話見て「ダメだな」って。
パターンの羅列で物語を作ってるのか、キャラクターも物語りも
どこへも行き着かない。

タクミくんシリーズは原作も知りませんが、予告編見るかぎり
そういう意味で、
「ダメ」なんじゃないかな、と。

斉藤ヤスカ、演技うまい方ですよね。
「風魔の小次郎」見て思いました。言葉も立ってるし、
アクションもうまかったです。

のようなことを悶々とおもってました。
長々と失礼しました。

それでは。
by utena (2007-11-07 04:33) 

frhikaru

 コメント、ありがとうございます。

 齋藤ヤスカくん、「轟轟戦隊ボウケンジャー」のボウケンブラックも、まぁ良かったのですが、「愛の言霊」では、なかなか良い演技をなさっています。

 齋藤ヤスカくん自身は、映画上映前のコメント映像で、共演の加々美正史くんを自然な演技と褒めていましたが、齋藤ヤスカくんの演技も、なかなか自然で良かったと思います。

 何よりも5歳年上の徳山くんを子供扱いする辺り、撮影当時、19歳の未成年とは思えません。(本当は、タバコも酒もNGの筈ですけど・・・。)

 大谷(徳山秀典)に腹を立てて、「うるせぇ」と怒鳴って、テレビを消し、リモコンをソファに投げ付けるシーン・・・、まさに、こうした経験があるのでは、と思わせる感じでした。

 大谷と立花の部屋、なかなか良い感じです。あれは、小道具にうるさい金田敬監督のセンスではないかと思います。ちなみに、祥吾(加々美正史)の部屋も、なかなかお洒落です。
by frhikaru (2007-11-07 23:53) 

utena

「愛の言霊」
見るの、楽しみです。

この映画に限らず、また舞台などの
細部や役者に対する
frhikaruさんのコメント、
生意気ですが、的確で説得力がある
と思いました。

決して、けなさないところも素敵ですね。
それでは、また。
by utena (2007-11-08 14:58) 

ももこ

はじめまして。
ブログの記事を読ませてもらいました。
ちょうど 「愛の言霊」を観てハマっていたところです。
こちらのブログを読んで更なる発見?というか別の視点もあったりして
とても楽しく読ませてもらいました。
今まで 全てではないですが いわゆる日本製BL映画観てきましたが
この「愛の言霊」が一番だったと思っています。
予算も多分低かったと思いますが、原作が良かったのとそして監督さん脚本家さんが良かった・・そして何より俳優さんが素晴らしく良かったです。低予算でも原作や演じる方がよければ 良作ができるんだなと思いました。 
私は特に徳山君のファンになりました。
できたら続編を希望しちゃいます。
ブログのお話 本当に面白かったです。ありがとうございました。

by ももこ (2008-03-08 05:21) 

frhikaru

ももこさん、コメントありがとうございます。
徳山さんは歌も唄っていますし、時々、舞台にも立ちますから、是非、応援してやって下さいませ。
by frhikaru (2008-03-08 11:20) 

寿

はじめまして
「愛の言霊」すごく良かったですよね。映像がとにかく綺麗で、観終わった後でしばらくポーっとなってしまいました。
約30年前の中高生だった頃に、BLの少女漫画にハマっていた時期があり、その後封印していましたが、レンタルショップで「愛の言霊」のパッケージを見て、思わず借りてしまいました。
私的には、レンタル用のパッケージにある大学のベンチで気だるそうにしている二人のシーンが一番好きです。あと、階段ですれ違うシーンもキュンとなっちゃいました。立花の身に着けている腕時計も似合っていていいなぁって思いました。
うちの旦那や息子達を見ているかぎり、実際の男ってあんなに繊細じゃないなぁって分かっていても、ドキドキしちゃいました。クラブから帰った後の息子の汗臭い剣道着を洗濯しながら、齋藤ヤスカ君はこんなニオイしないよなぁー、しないで欲しいよなぁって願っています。
自分勝手にいろいろ書いて、すみません。
それでは。
by 寿 (2008-03-16 01:10) 

frhikaru

寿さん、コメントありがとうございます。

齋藤ヤスカくんも、多分、汗のニオイはすると思います。そのニオイをどう感じるかは、ニオイを嗅ぐ人次第でしょうけど・・・。

「愛の言霊」は、BLものとしては、なかなかリアリティに富んでいて、お薦め品です。
by frhikaru (2008-03-17 01:09) 

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