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映画「バッテリー」 林遣都、岸谷五朗、萩原聖人、菅原文太、関泰章 [映画]

 少年野球と言っても、甲子園を目指す高校の硬式野球ではなく、中学の軟式野球ですから、いわゆるスポ根(スポーツ根性)ものとは、また違った雰囲気の映画で、家族の愛情、特に親子の愛情と少年達の友情がテーマでしょうか。

 親子の愛情をテーマにすると、父と息子、母と娘という感じが多くなりますが、この映画は母と息子の微妙な距離感が一つのテーマです。
 母と息子の物語というと、近日公開の「東京タワー オカンとボクと、時々、オトン」のように、優しい母親とマザコン青年という感じになりがちですが、この映画では素直に思いを伝えられない不器用な親子が語られます。

 主人公の天才ピッチャー、原田巧を演じるのは新人の林遣都くん、17歳の現役高校生ですが、大手芸能プロダクションのスターダストに所属する、一応、プロの俳優です。オーディションでキャストを選ぶと言っても、全くの素人の中から選ぶのではなく、一応、プロないしプロを目指して活動している人達の中から選ぶのが普通のようです。
 先の「ゲキレンジャー」でもオーディションで3人(悪役を含むと4人)を選んだということですし、最近、活躍している玉木宏さんも名古屋から上京して3年近く、「ウォーターボーイズ」に受かるまで、オーディションに落ち続けたということです。
 ジャニーズ事務所でも事情は同じようですが、単に事務所に所属したからと言って、すぐに芸能人になれるほど、世の中、甘くないということなのでしょう。

 さて、そんな、ある意味、とても幸運な林遣都くんですが、可愛いと言うよりも凛々しい顔立ちで、今後の活躍が期待されます。学生服を着て、ポケットに手を突っ込みながら、学校への坂を登るシーンなど、グラウンドでの投球シーンよりも格好良いと思います。滝田監督に、だいぶ鍛えられたようですが、これから更に演技に磨きを欠けていただきたいと思います。
 それにしても初出演で、これだけ共演者に恵まれるというのは新人俳優にとっては貴重な経験でしょう。何しろ、この映画、主役は新人の林遣都くんですが、父親役は岸谷五朗さん、祖父役は菅原文太さん、野球部顧問役に萩原聖人さん、校長役に岸部一徳さん等とベテランを取り揃えた贅沢な布陣です。

 父親の原田広を演じる岸谷五朗さんは、今夏公開予定の「西遊記」でも悪役(銀角大王)を演じるなど、最近、意地悪な役が多いようですが、今回は小心で善良なお父さんの役です。同じ金属バットを振り回す役にしても「龍が如く」の真島吾朗とは全然違います。岸谷さんの外見からは、むしろ、こちらの役の方がイメージに近い自然な感じなのですが、それにもかかわらず悪役を務められるというのが岸谷さんの役者としての魅力なのでしょう。

 プライベートでも、喧嘩っ早いと言われる萩原聖人さんは、そのまんまと言う感じの野球部顧問の教師役です。
 原作者の「あさのあつこ」さんも、浅野先生という役で、ちょっとだけ出演しています。職員室に戸村先生(萩原)を訪ねて来た沢口(米谷真一)に応対する先生の役で、ちゃんとセリフもあります。横手二中の阿藤監督(塩見三省)のように、1シーンだけの脇役にも名の知れた役者を使う贅沢なこの映画の中で、ちょっと異質なカットだったので、妙に印象に残りましたが、後から彼女が原作者と知り、納得しました。

 横手二中野球部の5番、瑞垣俊二を演じた関泰章くんは帝京高校野球部出身で、夏の甲子園にも出場したことがあるそうですが、この映画への出演を最後に、芸能活動を辞めるそうです。山口良一さんの若い頃に少し似ていて、「アストロ球団」では永山たかしくんらと共演したりもしていたのですが、なかなか芸能界も厳しいようです。
 同じ甲子園で戦った松坂大輔くんは、その後、プロ野球で活躍して、今は大リーガーとなりましたが、どの世界にも天才がいれば、その陰で寂しく去っていく人達もいるのでしょう。
 映画の中では1年生の新入部員なのに、いきなりレギュラーになる原田巧に嫉妬する3年生が描かれますが、才能と運に恵まれた天才と、努力しても報われない凡人というのは、現実には、ごく普通のことかも知れません。
 ところで、沢口を脅して巧にリンチを加え、野球部を退部になった3年生も、映画の最後のシーンで、巧が投げる橫手二中との試合を見に来ているカットが登場します。内申書のために部活をしたと言いつつ、彼も、やはり野球が好きだったのではないでしょうか。この辺り、滝田監督の優しさを見る思いがします。

 野球部顧問の戸村真(萩原聖人)が原田巧(林遣都)の祖父、井岡洋三(菅原文太)を訪ね、巧の野球について、寂しい野球と井岡が語るシーンはなかなか良かったです。
 戸村に語りかけつつ、実は風呂に入っている巧の父の広(岸谷五郎)に伝えたかったという思い、井岡の思いがとても自然に伝わってきます。また、その井岡の言葉を風呂に浸かりながら、黙って聞く広の姿も、なかなか見応えがありました。このシーンが普段は妻の真紀子に圧倒されている広が最後に、野球とは何かを真紀子に諭すシーンへと繋がっていくのでしょう。
 野球は誰のものかと問われれば、本当は誰のものでもないというのが答えではないでしょうか。野球とは心を伝え、通わすものであって、俺のものとか、お前のものとか、そういう風に捉えるものではないように思います。

 階段で繭と電話している巧(林遣都)のところへ、りんごを届ける母の真紀子(天海祐希)、りんごを食べながら、それを手で追い払う仕草をする巧。このシーンには、この二人の関係、お互いに不器用で、うまく思いを相手に伝えられない似たもの母子の関係が凝縮されているように思います。

 ところで、映画に登場する五右衛門風呂、学生時代に友達の実家(みかん農家)へ遊びに行った時に一度、入ったことがあります。確か風呂の底が熱くなるので、下駄を履いて湯に浸かったように記憶しています。映画の中では、そこまで細かい描写はなかったようですが・・・。この五右衛門風呂、昔は、どこの家にもあったようですが、最近は、田舎に行っても、もう無いのではないでしょうか。

 滝田洋二郎監督というと、数々のアダルト映画を手掛けた監督ですが、「壬生義士伝」のような重たい内容の中身の濃い映画の監督もしています。意外と良い映画を撮る監督のようです。

バッテリー

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  • 作者: あさの あつこ
  • 出版社/メーカー: 角川書店
  • 発売日: 2003/12
  • メディア: 文庫


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